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放送におけるIP化の流れ

放送におけるIP化の流れ

大きな流れの中で、現在進行中のお話ですので落ち的な物はないのですがおそらく、知っている人には当たり前、でも違う業界にいる人にとっては全く知らないお話です。

データセンターや、クラウド事業者、また、ハイパフォーマンスコンピューティングといった世界の他プロフェッショナルな映像編集の世界においても40GbE、100GbEのイーサネット製品が活用されています。4K非圧縮の映像データをネットワークを介して編集するためには、複数の映像ストリームを1つのネットワーク上に流す必要があり、10GbEのネットワークでは帯域幅が既に足らないという事態が生じているからです。

しかしながら、今回のお話は、映像編集ではなく、放送局の基幹を流れる信号についてのお話となります。現在、放送局内には、カメラから編集、そして送出に至るまで、SDI(Serial Digital Interface)と呼ばれる放送業界独自の規格の銅線ケーブルで、映像・音声・制御(同期)の信号が流れています。

地上アナログから地デジタルへと移り、デジタル化がなされようやく一息ついた後、TVは、既にこれまでのフルハイデフニション=FHD(2K)から、4K、HDR、8Kへと解像度や明度情報の増大に伴い伝送するべきデータ量が増加しており、これらに対応するために従来技術の延長で複数SDIのケーブルを束ねることで増加する帯域に対応する、あるいは、広帯域幅を提供する光ケーブルに置き換えるなど、様々なアプローチが考えられています。しかしながら、SDIは、放送業界独自の規格でありそれを活用する市場が非常に限定されているため、メーカが機材を開発するとその開発費用は機材に上乗せされ調達する機器の費用を押し上げるという構造的な問題があります。

そのため従来のように業界独自の規格にこだわるのではなく広くデータセンター等で活用されているネットワーク機器を上手に活用することで、機材の調達・運用費用を抑えることができないか?ということが考えられています。つまり放送局内を流れるデータをSDIという独自の規格で扱うのではなく、データセンター等でも活用されているTCP/IPのIPを使った伝送にし、イーサネット用のスイッチを使うことで機材に対する費用を劇的に下げることができないか?というアプローチです。

この試みのわかりやすい例を挙げると、2012年からBBC R&D (英国放送協会の研究開発部門)は、ライブスタジオ全体をIPネットワーク上で稼働させるエンドツーエンドの放送用のモデルを作る、「IP Studio」と呼ぶプロジェクトを開始し、実証実験を繰り返しています。

また、単に実証するだけでなく広く拡散させるためのオープンな仕様化や提言といった面においては、IP規格のビデオ仕様を開発しているVSF(Video Service Forum)による(TR-03/04といった)勧告、それを受けて米国のSMTPE (Society of Motion Picture & Television Engineers:映画テレビ技術者協会)が策定する(ST2022といった)仕様の他に、いくつかの団体やアライアンスが取り組んでおり、先のVSFとSMPTEにAMWA(Advanced Media Workflow Association)やEBU(European Broadcasting Union:ヨーロッパ放送連合)が協力し参照アーキテクチャを策定したJT-NM(Joint Task Force on Networked Media)や、AMWAによるNMI(Networked Media Incubator)プロジェクト、またそれ以外にも主要なところでAIMS(Alliance for IP Media Solutions)、SONY IP Live Alliance といったアライアンスが存在しています。

これらの団体・アライアンスの掲げる提言・仕様の根底にあるのは、拡張性高く今後も増大するであろう帯域への要求に応えながら、コストの果てしない増大を抑えることにあるように見えます。従ってイーサネットの規格に新たな仕様を追加し、放送用の特別なスイッチを開発させるものではなく、すでに策定されているIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.:米国電気電子学会)など、既存の様々な仕様を組み合わせて活用する方向にあります。もちろんスイッチによっては、一部、未実装の機能であったり想定外の活用方法であるなど必ずしも一筋縄ではいかないこともあるのかもしれませんが、これらの業界団体・アライアンスで全く新たに定義される機能ではなく、基本的にはすでにIEEE等他団体において何らかの規定があるものに見えます。

例えば、SMTPE(ST)2059-2の仕様の実態はIEEE1588-2008 で規定されている高精度クロックであり、包括的なシステム管理ツールからイーサネットスイッチを管理する手法としては、OpenFlow の活用が予定されていたりします。またSONY IP LIVEがEthernetスイッチに要求しているのは、IGMPv3や、DCB(Data Center Bridging)機能の一つPFC(Priority-based Flow Control)の機能であったりします。

2017年春のNAB Showの段階において、SMPTEの最新仕様であるST2110は、Final Draftとなっています。この仕様を元に現在、各団体の垣根を超えた相互検証・実証が行われている状況です。

IP伝送は、その規模より今日明日ですぐに導入が決定されるものではありませんが、国内でも某局で既にIP伝送に関する話があったと聞いていますし、また今後2020年に開催される大規模なスポーツ・イベントに向けて、あるいは、それ以降の民放各局の設備入れ替えにおいても、費用面などのメリットにより、局内のIP伝送網の構築の話が取りだたされることに間違いありません。地上デジタルの導入ではTVの買い替えをする必要がありましたが、映像のIP化は、気が付かないうちにいつの間にか実現されていたということになるかと思います。

さてMellanoxは? と言うと、現在企業としてこの放送業界を彼らの重点活動市場の一つとして挙げており、記載のBBC R&DのIP Studioプロジェクトに協力しており、AMWAのメンバーとしてまた、同NMOS(Networked Media Open Specification)のNetworked Media Incubatorにサプライヤーとして参加しています。さらに本年6月に開催されたEBUのイベント「Network Technology Seminar 2017」では、IEEE1588のIPコアを持つOregano Systems社と共にIEEE1588に関する講演を行うなど、この市場で積極的に活動しています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

製品販売推進マネージャ

豊原 学